鹵菜(ルサイ)は中華料理のルーツとも言われ、遥かに2500年前の春秋戦国時代、楚国の宮庭料理メニューに記載されていました。古代の中華料理は現在とはかなり異なって、主な調理方法は煮・羹・炙・膾があります。「煮」は煮込み料理、「羹」は熱い吸い物、「炙」は直火焼きの焼き肉、「膾」は刺身のような生肉の料理です。「羹に懲りて膾を吹く」(熱い吸い物を飲んでやけどをしたのに懲りて、冷たい膾も吹いてさまそうとする意)など、古代中国由来のことわざ・慣用句にも窺うことができます。
先人たちが、煮込み物を長持ちするため、たくさんの「鹵料(ルリョウ)」※2を使って作った「鹵水(ルスイ)」※1に漬け込むによって、長持ちするだけではなく、食材の旨みが一層引き立てたことを気づき、そこで新たな調理法「鹵(ル)」が生まれました。現在の中華料理で頻用される強い火力が必要な炒め物の技法は、北宋の時代、元々は石炭を加工した骸炭が磁器の製作に使用されていて、それが料理用の炉やかまどなどに転用される事によって生み出されたものです。以後南宋から元代にかけて普及してきました。
但し、その後、「鹵(ル)」という調理法はずっと継承され、さらに発展し続けてきました。
現在中国に八つ種類の中華料理(広東料理、四川料理、山東料理、福建料理、江蘇料理、浙江料理、湖南料理、安徽料理)の中に、すべて「鹵菜(ルサイ)」というメニューが存在しています。中華料理の大集成と言われる「満漢全席」にも「鹵菜(ルサイ)」の姿がありました。
これにより分かるのは、中国に「鹵菜(ルサイ)」は途轍もなく多くの人々に愛用されている中華料理の一つであることです。
※1 鹵水(ルスイ): タレのこと(鹵汁(ルジル)とも言います)。
※2 鹵料(ルリョウ): 鹵水に使用する香辛料のこと。
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現在の中国では「麻婆豆腐」「回鍋肉」よりも、
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鹵菜(ルサイ)には家畜の肉や内臓、魚介類、野菜など幅広い多くの食材が使用されています。
鹵菜(ルサイ)の基本的な調理方法は、まず食材を水茹して熟成し、水流して冷却しながら血のアクなどを洗浄します。
水気を取り除いて、予め作った鹵水(ルスイ)に漬け込みます。
鹵水(ルスイ)の材質のよって、食材を冷めてから漬け込みか、鹵水(ルスイ)に入れてじっくり煮込んでから冷却して置くかといった方法があります)。漬け込み時間は食材や料理によって数十時間から数日様々であります。
鹵菜(ルサイ)に使われる鹵料(ルリョウ)は、先人の知恵を蓄積されていて、たくさんの天然植物が選別されました。
例えば:茴香(ウイキョウ)、八角(ハッカク)、甘草(カンゾウ)、桂皮(ケイヒ)、花椒(ホアジャオ)、良姜(リョウキョウ)、山奈(サンナ)、胡椒(コショウ)、月桂葉(ゲッケイヨウ)、草果(ソウカ)、胡麻(ゴマ)、白豆寇(ビャクズク)、肉豆寇(ニクズク)、砂仁(シャニン)、丁香(チョウコウ)、白芷(ビャクシ)、生姜(ショウキョウ)、陳皮(チンピ)、枸杞子(クコシ)、唐辛子(トウカラシ)、当キ(トウキ)、姜黄(キョウオウ、宇金とも呼ばれる)、葫芦巴(コロハ)、辛夷(シンイ)、シ子(シシ、クチナシとも呼ばれる)、千里香(センリコウ)、孜然ズーラン)、郁金(ウコン)、枳穀(キク)、山ザ(サンザ)、五加皮(ゴカヒ)、羅漢果(ラカンカ)、大蒜(ニンニク)、葱(ネギ)等。中に多くの調味料が漢方薬の材料とも使用されています。
一つの鹵水(ルスイ)は食材との相性、料理の風味、または薬膳としての効果などを考えて、だいたい五種類から十数種類の鹵料(ルリョウ)を選定して使用します。
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●十数種類の漢方薬にも使われる香辛調味料を使用される ことによって、薬膳効果があると珍重された料理。 ●たくさん香辛調味料を使うことで、食材の旨みがより引き出され、出来た料理(鹵菜)が香ばしくて美味しくて長持ちする。 ●冷めても美味しい(一般的に鹵菜は冷菜として前菜メニューに出される料理)。 |
鹵菜(ルサイ)は大きく分けて3つの種類に分類されます。
黄鹵菜(ホァルサイ)は上海料理によく使われ、鹵水(ルスイ)は紹興酒(中国では通称「黄酒」)と紹興酒の酒粕をベースにしたため、黄鹵菜(ホァルサイ)に分類された。食材に滲み込んだお酒の香りと酵素の働きによって生み出した旨味が食欲を誘います。
黄鹵菜(ホァルサイ)の鹵水(ルスイ)は大量の紹興酒と香糟(紹興酒の酒粕を庵製しなもの)を使用するので、まさに紹興酒を生産している江南地方にしか生み出せないご当地の食文化なのです。
酒粕で配合した鹵水(ルスイ)は、酒の香りが漂って食欲促進の効果があります。鹵水(ルスイ)自身にはタンパク質、アミノ酸、ビタミンなど豊富に含まれており、また、タンパク質分解酵素や澱粉質分解酵素など80種類以上の酵素が含まれています。この80種類以上の酵素は、漬け込んだ食材(肉や魚)に多く含まれるタンパク質をアミノ酸に分解してくれます。分解されることで、食材の旨味がより高く感じます。また分解作用は、咀嚼し、胃酸で溶かす前から、既に消化が始まって吸収がよりスムーズになります。その結果、胃腸に負担をかけることなく、食材の栄養素を効率的に吸収できます。
美味しい、かつ健康に良いとされる黄鹵菜(ホァルサイ)の愛好者は、上海地方にとどまらず全国に広がっており、非常に多いです。
当工房が製造した『黄鹵菜(ホァルサイ)』には以下の香辛料・調味料を使用しています。
花椒(ホアジャオ)、八角(ハッカク)、枸杞子(クコシ)、辣椒(ラッジョウ)、生姜(ショウガ)、葱(ネギ)、紹興酒(ショウコウシュ)、酒粕(サケカス)、食塩、白砂糖、白醤油
紅鹵菜(ホンルサイ)は四川料理が最も代表的で、鹵水(ルスイ)に醤油、赤い唐辛子と紅砂糖がよく使われるので、 出来上がった鹵菜(ルサイ)が鮮やかな赤色が特徴です。味は麻辣咸が効いて、食欲が刺激されついついお箸が伸ばしてしまいます。
当工房が製造した『紅鹵菜(ホンルサイ)』には以下の香辛料・調味料を使用しています。
八角(ハッカク)、茴香(ウイキョウ)、花椒(ホアジャオ)、桂皮(ケイヒ)、丁香(チョウコウ)、良姜(リョウキョウ)、肉豆寇(ニクズク)、砂仁(シャニン)、草果(ソウカ)、黒胡椒(クロコショウ)、胡麻(ゴマ)、生姜(ショウキョウ)、辣椒(ラッジョウ)、葱、食塩、砂糖、醤油、調理酒
白鹵菜(バィルサイ)は広東料理、安徽料理や江浙料理など広く見られ、鹵水(ルスイ)には色付きの調味料、香辛料が使わず、食材本来の色や形などを生かし、綺麗な食材に対して食欲を喚起します。
当工房が製造した『白鹵菜(バィルサイ)』には以下の香辛料・調味料を使用しています。
茴香(ウイキョウ)、 八角(ハッカク)、花椒(ホアジャオ)、陳皮(チンピ)、山奈(サンナ)、丁香(チョウコウ)、良姜(リョウキョウ)、白豆寇(ビャクズク)、白芷(ビャクシ)、香叶(シャンヨウ)、白胡椒(シロコショウ)、甘草(カンゾウ)、生姜(ショウキョウ)、 葱、食塩、砂糖、調理酒